岩戸伝説【天岩戸隠れ】
   昔、天照大神が、弟の素戔鳴尊の乱暴を怒って天の岩屋へお入りになってしまわれました。世の中は真っ暗闇になり、いろいろの悪い神々が出てきて、恐ろしいことや、悲しいことが次々におこりました。


  大勢の神様たちは、岩屋の前に集まって、天照大神に岩屋から御出でになっていただくにはどうしたらいいだろうかと、相談をしました。その時、戸隠神社の中社にお祀りされている天八意思兼命が「良いことを思いついた。私たちが岩戸の前で踊ったり歌ったりして楽しそうにしていると、きっと天照大神様は、「あの者たちは何をしているのだろう』とおのぞきになるにちがいありません、・・・」と知恵をしぼって考えをだされました。


  天八意思兼命のお考えにもとづいて、神様たちは準備をしました。まず鶏を沢山集めて鳴かせました。火之御子社に祀ってある
天宇受売命は大変踊りの上手な神様ですが、この神様が伏せた桶の上にのって足拍子も面白く「とんとん、とととん、と」と踊りました。大勢の神様も「やんや、やんや」と手拍子をうってこれに応えました。天八意思兼命が「コケコッコー」と長鳴鶏の鳴き声をまねると、沢山の鶏は一斉にコケコッコーと鳴きだしました。天鈿女命の踊りがあまりに面白いので、神様たちも「わっははは」「おっほほほ」と笑ったりつられて踊りだしたりしました。


  岩屋のなかの天照大神は何事がおきたのかと、そっと岩戸をあけて外をご覧になりました。その時岩戸のかげで待ち構えていた
天手力男神(奥社にお祀りしてある神様)が岩戸に手をかけ一気にガラガラと渾身の力を込めて、岩戸をあけてしまわれ、天照大神を岩屋からお出ししました。世の中は再び明るくなり、悪い神々は、にげ去りました。天手力雄命は、また天照大神が岩戸にお入りになってはたいへんと、岩戸を「エイッ」と持ち上げ下界へなげすてて仕舞われました。岩戸は宙を飛んで日本のだいたい真ん中に落ちました・・・・・・。


  この時、天手力雄命が放り投げたのが、「戸隠山」であるという話は、「古事記」や「日本書紀」にもあり、日本の神話として昔から語りつたえられている有名な話ですが、この岩戸神話と同じような話が、戸隠の古い記録である「戸隠山顕光寺流記」や「戸隠本院昔事縁起」にも記されいます。


  この神話は、皆既日食をあらわしているという見方が有力である。古代の人々は、生命の根源である太陽が、日中、雲もないのに段段と削れていくさまに恐れを抱いたことは容易に想像できる。それを太陽神、天照大神の怒りや嘆きと結びつけたことに、なんの不思議もない。それがこのような形で神話として残っているあたり、日光をはじめとする自然が、人間の生活にいかにかかわっていたかをうかがい知ることができるだろう。


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